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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)366号 判決

同栄信用金庫

理由

訴外株式会社鈴木菓子機械製作所(以下訴外会社と略称)が控訴人から手形貸付又は手形割引の方法により合計七百四十三万三千五百六十円を借受け、右借受に際し被控訴人が右会社の控訴人に対する債務につき連帯保証をしたこと、右債権を原因とする控訴人の被控訴人に対する約束手形金請求事件の判決の執行力ある正本に基き、控訴人は被控訴人に対し被控訴人所有の宅地百六十八坪につき東京地方裁判所に強制競売を申立て、同庁は昭和三十四年七月三日強制競売開始決定をし、次いで同年九月二十五日、競売期日を同年十一月九日午前十時、競落期日を同年十一月十日午前十時と定め、同地方裁判所掲示場及び大田区役所掲示場に掲示公告し、更に同年十月二十八日日本経済新聞紙上に右競売期日及び競落期日を掲載公告したこと(証拠によると、右競売期日には競売は行なわれず、同年十一月十一日に次の競売期日を同年十二月二十一日午前十時と定められたことが認められる。)、控訴人は同年十一月十二日右競売申立を取下げたので、これにより右競売事件は終了したこと、これよりさき、昭和三十四年七月二十一日、控訴人と被控訴人との間に被控訴人が控訴人に対し前記保証債務について金二百万円を同年十月三十一日までに支払えば、その余の保証債務を免除する。被控訴人は右二百万円の支払につきいかなる条件も附さない旨の約定ができたこと

以上の事実は当事者間に争いがない。

ただ、被控訴人は、昭和三十四年七月二十一日の約定で二百万円の支払時期を昭和三十四年十月三十一日と定めたことにより、控訴人は被控訴人の前記債務の弁済を同日まで猶予し、それまでは控訴人は被控訴人に対し請求又は督促がましいことをしない約旨であつたと主張し、控訴人は同日の約定は単に被控訴人がいかなる条件もつけないで昭和三十四年十月三十一日までに二百万円を支払えば、その余の保証債務を免除することに重点がおかれたに過ぎず、被控訴人が右二百万円の支払につきいかなる条件も附さないと約した趣旨は、控訴人において本件競売事件を取下げるとか右競売事件の進行を停止する手続をするとかを条件としないことをも含むものであつて、控訴人が被控訴人に対し昭和三十四年十月三十一日まで債務弁済を猶予したものではないと争うので、この点について判断する。

証拠を綜合すると、前記昭和三十四年七月二十一日の約定の趣旨は、要するに、被控訴人が控訴人に対し昭和三十四年十月三十一日までに金二百万円を支払つたときは、この支払を条件として控訴人は被控訴人に対しその余の前記保証債務をすべて免除する、という一種の停止条件附債務免除契約にほかならないものであり、しかも右二百万円の支払については被控訴人においていかなる条件もつけないというのであつて、既に履行期の到来している前記債務の弁済を昭和三十四年十月三十一日まで猶予するというような趣旨でないことを認めるに十分である。もとより競売手続の進行は裁判所がその権限に基いて行なうものであるけれども、右約定の趣旨からみて、もし前記宅地の競売が昭和三十年十月三十一日以前に実施せられるような情勢にある場合には、控訴人において競売が右の日時以後に延期せられるよう適切な措置を講ずべきであり、また前記二百万円が約定の期限までに支払われ、被控訴人の保証債務免除の効力が発生した時は遅滞なく前記強制競売の申立を取下げるべきであることは当然というべきであるが、前記競売事件の競売期日は前示のとおり昭和三十四年十一月九日と定められていたのであるからして、同年十月三十一日前に競売が実施される心配はなかつたものと考えられる。要するに前記約定の成立に伴い、右競売事件について、控訴人の配意すべき事柄は右の限度を超えるものではなく、競売事件の進行が全面的に停止されるように措置したり、競売申立を取下げたりしなければならないものではないと解するのが相当である。

被控訴人が約定の昭和三十四年十月三十一日までに金二百万円の支払をしなかつたことは当事者間に争いのないところであるが、証拠によると、同年十一月十二日に前記訴外会社の顧問弁護士を介し被控訴人が支払を約した金員なりとして控訴人に対し金二百万円が提供されたので、控訴人は金員の出所にかかわることなく、また既に約定の期限は過ぎていたけれども、強いて前記債務免除契約の失効を主張することなくしてこれを受領し、よつて前記のように強制競売の申立を取下げたものであることを認めることができる。

以上説明の次第で、前記競売申立は控訴人の権利行使にほかならず、被控訴人との間に前記約定が成立したからといつて控訴人には競売手続停止の措置を講じたり、競売申立を取下げたりする義務はないものというべきであるから、被控訴人の請求の認容できないことは爾余の点の判断をまつまでもなく明らかなところである。

よつて、以上と反対の趣旨に出で、被控訴人の請求の一部を認容した原判決は失当であるとして、これを取消した。

〈以下省略〉

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